un-controlでは「好きなことを、好きなように学ぶ」事例を発信していきたいと思っている。
でも、子どもの「今」の好きを優先させた結果、「将来」自立して生きていくことが難しくなるのでは…という不安が頭をよぎることがある。
私を含め、以前までの「決まったことを、決まったように」の教育を受けてきた大人が、「好きなことを、好きなように」という見通しのない新しい教育のカタチに不安を感じるのは当たり前のことだと思う。
しかし同時に不安だからという大人の理由で、子どもの「好きに学ぶ」という自由を奪ってしまうのは、とてももったいないとも思う。
どうしたらこの不安を手放して、子どもの好きを応援できる大人を増やしていくことができるのだろうか…というのは以前からの疑問だった。
そんなとき、出会ったのがこの本だ。
世界のエリートが今一番入りたい大学ミネルバ
これまでの「知識の普及」から脱却し、変化の速い社会で活躍するための「実践的な知恵」を伝えることを目的に設立されたミネルバ大学。
2014年に設立されたばかりにも関わらず、いまやハーバード以上の難関とも呼ばれ2万人以上の受験者が集まるという。合格率はわずか1.9%の狭き門だ。
ミネルバ大学最大の特徴は、校舎やキャンパスがないこと。授業はすべてオンラインで行われ、一方的に知識を教授する授業は存在しない。学生たちはオンラインで基礎知識を身に着けながら、4年間で7つの国際都市を廻り、現地の企業や行政機関、NPOと協働プロジェクトを行う。
これだけでも実践的な知恵と呼ぶにふさわしいような気がするが、特に興味深いのがミネルバ大学のカリキュラムだ。
”ミネルバ大学では、未知の世界でも応用できる高度な汎用スキル=115項目からなる「思考習慣」と「基礎コンセプト」を1年次に徹底的に身に着ける。”
これがミネルバ大学で「一生涯使える実践的な知恵」と呼ばれるものだ。
未知の世界で応用できる「思考習慣」と「基礎コンセプト」とは
世界のエリートが今一番入りたい大学ミネルバでは、その詳細についてこのように説明されている。
今日の社会では情報は容易に入手でき、知識そのものは陳腐化している。
教育に求められる役割は知識を伝えることから、
①情報を解釈し、自分の直面している課題に応用できる思考技能
②自分の考えを効果的に回りの人々に伝え、よりよい結果を導けるようにするコミュニケーション能力
の養成をすることである。
つまり、①個人の思考スキル②集団におけるコミュニケーション技能の2つが、変化の速い世界で生きていくうえで大切な能力として位置づけられているのだ。
さらに、この2つの能力はより詳細に、115つものスキルに分解されている。
世界のエリートが今一番入りたい大学ミネルバ『2-2ミネルバ大学は、何をどう教えているか』より引用
こちらの記事により詳細なスキルの項目が載っていた。参考までに目を通して見てほしい。
1.個人の思考能力
i)批判的思考
a)主張を評価する
主張、批判、必要な情報を見極める、情報の確かさ、推定、妥当性、可検査性、認識論、科学的技術、条件付き確率、サンプリング、記述統計、効果量、信頼区間、相関、回帰、ベイジアン統計、有意検定
b)推論分析
演繹法、帰納法、論理的正誤、誘導、予測、注意バイアス、確証バイアス、記憶バイアス、解釈バイアス、前後関係、ノンフィクション、詩、視覚芸術、音楽、マルチメディア、分析レベル、構成要素、システムダイナミクス、創発特性、複数原因、ネットワーク
c)決定原理
目的、実用性、原理、報酬、サンクコスト、割引現在価値、ブロードフレーミング、意思決定のための樹形図、感情的偏見
d)課題分析
正しい課題設定、ギャップ分析、ゲーム理論、変数
ii)クリエイティブ思考
a)発見を評価する
仮説主導型調査、理論テスト、モデル化、データ視覚化、実験デザイン、観察、事例研究、インタビュー
b)問題解決
類推、制約、最適化、発見的問題解決法、逆説的思考、アルゴリズム、シミュレーション、認知バイアス、自己学習
c)製品開発
デザイン思考、経験的創造性、抽象化
2.集団での対人能力
i)効果的なコミュニケーション
a) 効果的な言語の使用
論文、構成、構成、聴衆
b) 効果的な非言語表現の使用
表情、ボディランゲージ、コミュニケーションデザイン
i)効果的な交流
a) 交渉や説得
仲介、交渉、最善の選択肢、議論戦略、反論、共通点、説得、論理的説得、感情的説得、自信
b) 他者との効率的な協働
リーダーシップ、アメとムチ、調和、組織構造、オープンマインド、メタ認知、自己認識、感情的知性
c) 倫理的問題の解決と社会的意識
倫理的枠組み、倫理的衝突、公平性、責任
「好きなことを学ぶ」にミネルヴァ大学のカリキュラムを生かすには
とても興味深いと思ったのは、抽象的な概念が、より具体化されてインプット可能なスキル群に分解されていることだ。
もちろん上記は大学で学習されるスキルの一覧であるから、まだ幼い子どもたちにそのまま応用するのは難しいかもしれない。
しかし、今子どもが取り組んでいる活動をスキルに分解するうえでとても参考になると感じた。
例えば…
「ゲームが好きで、それを他者に伝えるのが好き」という状態は、
→【推論分析】前回も、前々回も〇〇が原因で失敗したから、今回もそうなるかもしれない
→【効率的な(非)言語の使用】他者に伝える際にボディーランゲージ、効果的な言語表現を使って伝える
という得意なスキルに結び付いている可能性がある。
こうしたスキルが可視化されることは、周囲の大人が子どもの「好きな学び」を見守る上でひとつの安心材料になるのではないだろうか。
しかし「特定のスキルを身に着けるために、特定の活動をする」という考え方だと、せっかくの「好き」が「学習」のために使われてしまうことにもなりかねない。
そう考えると「この活動に熱中しているということは、こんなスキルが身についているかな。ということは、次はこんなことにも楽しんで挑戦できるかな」もしくは「こういうことがやりたいのなら、このスキルを身に着けるといいのかな」と、子どもの好きの延長線上で、活動や興味の幅を広げていくことに使えるといいのかもしれないと感じた。
また、ミネルバ大学の学生はこれらの思考技術・コミュニケーション技術をまんべんなく学ぶということだが、それがすべての子どもに必要かといわれるとそうではないと思う。
スキルが可視化されているとどうしても全てをまんべんなくという思考に陥りがちだが、上記のことに気を付けながら、うまく活用していけるといいのではないだろうか。
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