今回インタビューをさせていただいたのは、小学1年生のゆうと君とそのお母さんである枝里さん。
小学校1年生のゆうと君は、マインクラフトやゼルダの伝説が大好きな男の子。
現在は学校には行かず、好きな学びの場を自由に組み合わせるホームスクールで学んでいます。今は大好きなゲームの実況動画づくりにも挑戦中。
私がおふたりのことを知ったのは、枝里さんのツイッターがきっかけでした。
――漢字を読めるようになりたい!と音読を始めた息子。ルビがふってあってもなかなかスムーズには読めなかったようだが、自分からそう思えるようになったのは凄い。やりたくなるまで待つことの大切さ、無理強いしない学び方に驚く毎日。楽しい。
――私にはそんなに没頭できる好きなことがない。その点息子は、朝起きた瞬間から、それを1日中、何日でも続けたいほどに没頭できることものがある。途中でぱったりやらなくなってもいいし、仕事に繋がらなくてもいい。没頭できた時間があることが次に繋がる。
「やりたくなるまで待つこと」「無理強いしない学び方」を模索しながら、息子さんの「好きなこと」を大切にしている枝里さん。
――人間が決めたことなんだから、鉄みたいに固くしないで好きに変えればいい。絵本を読み聞かせてしていて、息子が感じたことを教えてくれた。
――「女の人は男の人より大変だから、僕が大人になったらママや妹ちゃんには寝ててもらって、僕がご飯や色んなことをするから。」 「ママの微笑んでる声が僕は一番落ち着く」 息子からもらった言葉に、そうやって言葉にしてくれる君は本当に素晴らしいしママの誇りだよと抱き締めた。
自分の感情や考えたことを率直に、そして誠実に伝えることができるゆうと君。
おふたりに、とても魅力を感じたことを覚えています。
今回は、ゆうと君がホームスクールを選んだ理由や、枝里さんがゆうと君の「好き」を大切にしたいと考えるようになったきっかけなどをお話していただきました。
彼の良さを大切にしようとたどりついた「ホームスクール」という学び方
ホームスクールという学び方を選ばれたきっかけはなんでしょうか?
ゆうとは得意ではないことや好きではないことを強制されることが苦手で。以前、心理士さんからも「決められた課題に集中できるのは10分くらいかもしれない」と教えてもらったんです。
小学校は支援学級に在籍しているのですが、それでも他のお友達もいるなかで10分ごとに活動を変えてもらうというのは難くて。
たしかに学校だと「50分の国語の授業」「10分間の休み時間」というようにやることも時間割も決められてしまっていますもんね。
保育園では、やりたくないと思ったことも本人に伝わるように「分かりやすく」説明してもらい、自分のペースでやってみたら楽しかったという経験を積んでいたので、決まった教科を決まったペースで学ばなくてはいけない小学校になじめるのかなと、少し不安だったんです。
通い始めてみると、最初は毎日学校に行っていたのですが、次第に行くのを嫌がるようになっていって。
なにか理由があったのでしょうか。
やはり授業というくくりのなかで何かを強制されることが嫌だったのかもしれません。
また、周囲の子と自分を比べて「あの子は字が書けるのに、僕は書けない。こんな自分は嫌だ」と泣いてしまうこともありました。
でも、ゆうとからは絶対に「学校に行かない」と言わないんです。毎日「我慢していくよ」と言いながら登校していく。
そんな姿を見て「もう学校行かなくていいし、行きたくなったら行こう」って私から伝えたんですよね。
そしたら、ゆうと君は…?
一言、「ありがとう」って。それだけ嫌なことを我慢していたんだな、と実感しました。
他の親御さんのお話を伺うと「学校に行かない」という選択はハードルが高いんだろうなと感じることが多いんです。枝里さんのなかで葛藤はありましたか?
実は、私はもとから「学校で頑張ってもらいたい」という気持ちがあまりなかったんですよね。というのも「ゆうとのいいところを学校で伸ばせるのかな」と少し疑問に思っていたからなんです。
先ほどもいったように、彼は興味がないことや苦手なことを強制されることに拒否感があって。
だから、学校で行われるテストや成績ではゆうとの「よさ」は測れないんじゃないかなと思っていたんですよね。
では、元から学校ではない選択肢も考えていたのでしょうか。
そうですね。色々と情報収集をしたり、ゆうとがどんな学び方を選んでもフォローしていこう、と家族でも話し合ったりしていました。
実は、私の父親も幼稚園のときに、幼稚園があわなくて自分で幼稚園をやめたそうなんです。だから合わなければ、他にあうところを探せばいい、と。
夫や母、妹も「世間にあわせなくても、本人にいちばんあう学び方ができるといいね」と言ってくれていました。
家族みんなが「私たちもゆうとをサポートするよ」と言ってくれたことで、色々な場所を組み合わせながら学ぶホームスクールをはじめることになったんです。
学びの場を「組み合わせる」新しいスタイルの学び方
実際ホームスクールではどのように学んでいるのでしょうか?
ゆうとは「〇分間は座って話を聞く」「この時間はこれをやる」などのルールが決まっていることが好きではないので、自分のペースで学べるところを探していました。
なので、今ホームスクールをベースに「Branch room」や多機能型通所施設「キッズコネクション」、応援会員として「YES International School Tokyo」といった様々な場所を組み合わせて通っています。
また「NHK for School」や「tanQuest」などの教材も利用していますね。
自分たちで学ぶ場所や学び方を決めるとなると「あう」「あわない」も自分たちで決めることになりますよね。
そうですね。実際に行ってみたり、やってみたあとに、本人に感想を聞いて一緒に決めています。
楽しかったときはそう伝えてくれますし、「こうやって言われて嫌だった」「これが苦手」と自分の感情を正直に話してくれるんですよね。
「どんな気持ちもはなまるだよ」と伝えつつ、もう1回行きたいかどうか、やってみたいかどうかの選択は本人に任せるようにしています。
1回やってみて嫌だと言っていても、時間をあけてから「行ってみる?」と聞くと平気なこともある。1回嫌がったからダメ、ということでもないと思うんですよね。
だから、ゆっくり本人にあうところを見つけていければいいなと思っています。
ゆうと君が気にっている学び場にはどんなところがありますか?
今は、代官山にあるBranch room(*)という場所をよく利用しています。Branch roomでは、子どもの好きなことを軸にして自信をつけ、社会とつながることを大切にしているんですね。
(*)「好きで自信を創り、好きで社会とつながる」をビジョンに株式会社Woodyが運営する代官山の教室。専門家と子どもをつなげ子どもの可能性を広げるマッチングサービスBranchも運営している。
ゆうとはゲームとYoutube動画が好きなので、今はゲームの実況動画をスタッフの方と一緒に作っています。
最初にBranch roomに行ったとき、マインクラフト(*)について楽しそうに話すゆうとの様子を見て、スタッフの方が「ゆうと君は建築物作成の解説動画よりも、マインクラフト内のキャラクターが繰り広げるストーリー動画を好んで見ているようです」と教えてくれて。
(*)ブロックを配置して学ぶ建築物等をつくったり、人物を操作して冒険を楽しんだりすることができるゲーム。
そこで、スタッフの方と相談して自分でストーリー動画を作ることにチャレンジしてみることになったんです。
▽Branch roomのスタッフと動画を作成するゆうと君
「好きなモノを自分で作ってみよう」ということですね。
最初はスタッフの方にサポートしてもらいながらストーリーを作成したり、私が質問をしてそれにゆうとが答える形で実況をしたりしていたんですね。でも徐々に自分で時間内に話したいことをまとめたり、相手のことを考えて話すことができるようになっていって。
好きなことから学ぶことってすごく多いのだなと実感しています。
▽自宅でも枝里さんと一緒に動画撮影
「好き」を徹底的に尊重することが子どもの世界を広げる
枝里さんのツイッターを日々見ていてとても素敵だなと感じるのが、「こうしなさい」と押し付けることはせず「どうしたいの?」と常にゆうと君の意思を聞いているところなんですよね。
実は私も最初は押し付けてしまうことが多かったんですよ(笑)
走るの好きだからサッカー教室を勧めてみたり、耳がいいから英語教室に行ってみたり。
でもどれも全然続かなかったんですよね。本人が好きなこと、自分からやりたいことこそ尊重したほうがいいのだと徐々に私も考えが変わっていったのだと思います。
では、試行錯誤しながら「本人の好きなことを尊重する」という今の関わりかたに行きついたんですね。
そうですね。その時々で本人が楽しめることももちろん大切ですし、好きなことを行う延長線上に「もっと知りたい」「もっとやってみたい」という気持ちが生まれ、ポジティブな気持ちで色々なことを学べるのっていいなと思ったんですよね。
たしかに嫌がることを無理やり学ばせようとするのではなく、楽しみながら学ぶほうが親も子もお互いに幸せな気がしますよね。
以前、一緒に花火を見に行ったら「すごくキレイだった」とゆうとが感動していて。
それであれば…と、帰ってきてから一緒に「NHK for School」の音と光に関する動画を見たんです。あとは、花火をマインクラフトのなかで作ってみたいと言うので「じゃあMOD(*)入れてみる?」と一緒に調べてみたり…
(*)ModificationやModding fileの略で、パソコンゲーム用の改造データのこと。導入することで多様な機能を使うことができるようになる。MODを導入することで花火を作るための機能を付け加えることを検討していたとのこと。
そうやって好きなことを通じて少しずつ興味関心を広げ、より世界が豊かになっていくといいなと思っています。
子どもの「好き」は親だけでは見つけられない
「好きなことを通して学ぶこと」についてお話していただきましたが、子どもの「好きなこと」に気づいて広げていくのって意外と難しいなと感じていて。
本人もまだ自分の「好き」に気づいていないこともあるし、気づいていても挑戦してみたいと言い出せないこともあると思うんです。
私も親だけが子どもの「好きなこと」に気づいて広げていくのって難しいなと思っていて。
実は、今やっているゲーム実況動画の作成も、ゆうとはずっと心の中でやってみたいと思っていたようなんです。でも、私は気づいていなくって。
Branch roomに通うようになってスタッフの方と関わるなかで、徐々に「好き」が形になっていったんですよね。
親以外の色々な人が関わることで、その子の「好き」に気づきやすくなるのかもしれないですね。
そうだと思います。私が仕事に行っている間は両親がゆうとを預かってくれているのですが、父と話したことを家に帰ってきてから私に伝えてくれたり、母と一緒に見たテレビで興味をもったことを教えてくれたりするんですね。
あとは、先ほど話にでていたマインクラフトのMOD導入も、私や夫はやり方がよくわからないので、知り合いのお子さんに手伝ってもらったんです。
そうやって色々な人と過ごしたり、助けてもらったりすることが彼の「好き」を見つけたり、広げていくことにつながるのではないかなと思っています。
感情をそのまま受け止めること
もうひとつ、私が枝里さんの関わり方で素敵だなと思っている部分があって。それは「好き」という気持ちだけでなくゆうと君の「苦手、嫌い」という気持ちも尊重しているところなんです。
ある授業に参加した時のツイートを見て、すごくそれを感じたんですよね。
――ヒンメリ作り。無理!できない!と怒りモードの息子に「これねぇ大人でも難しいんだよ」「難しいな、つまらないなということも必ずでてくるから、つまらない、やりたくない気持ちも大事。マル!」「お約束は、何かに集中しているお友達の邪魔をしないことだけ」
大人って、子どもが何かを嫌がったり、やりたがらなかったりすると、ついつい「我慢してやりなさい」と言ってしまうことが多い気がしていて。
でも「『嫌だ、苦手』という気持ちもはなまるだよ」と伝えられる枝里さんは素敵だなと思うんです。
ツイートした言葉をゆうとに伝えてくださったのはある塾の先生なんです。
子どもにこんなふうに声をかけ、見守ってくれる先生と関わることが、私自身の学びにもなっていると感じています。
ほかにも、保育園の先生がゆうとにかけてくれた言葉も印象に残っていて。
保育園の頃、ゆうとは何かを強制されると怒ってしまったりすることも多かったんですね。そんなとき、ゆうとを見ていた先生がこう言ってくれたんです。
「でも、ゆうと君が言ってることって『正しい』んですよね」
なぜ嫌なのかという理由を本人はしっかりと持っているし、その主張も筋が通っている。嘘をついたり、困らせようとしているんじゃなくて「本当にやりたくないこと」を自分で考えた上で伝えてくれているんだ、って。
そう聞いてから「ああ、ゆうとが言ったことことは信じよう」って私も思えるようになりました。
もちろん他の人を傷つけるようなことはダメだと伝えますし、 あわただしい毎日で余裕がないと丁寧に向き合えないこともあります。
でも、ゆうとに聞くといつも「自分を正しく理解してもらいたい」って言うんです。分かりやすく説明してもらいたいし、ちゃんと聞いてもらいたい、と。
その言葉を尊重して、できるだけ「感情を否定する」のではなく「どうその感情と付き合っていくのか」を伝えられたらと思っています。
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子どもの感情や考えを尊重し、見守る枝里さんのそばにいるゆうと君は、とても安心して自分を出せているように感じました。
そして枝里さん自身も「次は何をやろうとするのかな」とゆうと君を楽しんで見守っているように見えました。そんなお互いを尊重するような親子関係がもっと広がっていくといいなと思います。
枝里さんのツイッターはこちら
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