「熱帯雨林をテーマにした学習では、段ボールや紙を使い、実際に教室を熱帯雨林のように改造しました。そのほかにも、頭蓋骨の形から熱帯雨林の生物の食べ物を予想したり、熱帯雨林に関する本を読んで調査したりする方法などをプロジェクトのなかで学んでいきます」
聞くだけでワクワクするようなプログラムを行うのは、サンフランシスコにあるクリエイティブ・アート・チャーター・スクールだ。1994年に芸術を中心に据えたプログラムを行うことを目的に設立されたチャーター・スクールであり、その先進的な教育が注目を集めている。
しかし、注目を集めるのはアートを中心としたカリキュラムを行っているからだけではない。教科横断的な学習スタイル、生徒の自発性を大切にする教室運営も注目を集める要因となっているというから興味深い。
今日は同校のホームページで紹介されている事例をもとに、クリエイティブ・アート・チャーター・スクールの特徴を見ていきたい。
実際の経験を通して学ぶプロジェクト・ベースの学習
クリエイティブ・アート・チャータースクールの大きな特徴は、プロジェクト・ベース学習のスタイルをとっている点だ。
例えば、冒頭で紹介した熱帯雨林のテーマ以外にも、数々のテーマに基づき学習が行われている。
【テーマ:熱帯雨林】
・熱帯雨林の生態系を調べる
・動物の頭蓋骨を調べ、どういったものを食べているのか話し合う
・密封した容器のなかで植物を育てたり、昆虫を飼うことで生態系を調べる
・専門機関と連携して、熱帯雨林の保全活動について学ぶ
・熱帯雨林に関するフィクション、ノンフィクションの本を読み、リサーチの仕方を学ぶ
・学年の最後にはひとりひとつの熱帯雨林の動物を選びレポートを書いて発表する
・段ボールや紙を使って教室を熱帯雨林のように飾り付ける
Photo by Ellicia on Unsplash
【テーマ:先住民】
・先住民であるオロー二族の調査を行う
・先住民の伝統工芸品を作り、教室を飾る
・先住民の伝統楽器で演奏会を行う
【テーマ:古代文明(6年人文クラス)】
・人類学や考古学を学び、古代文明に関する調査を行う
・旧人類のレプリカを創ったり、教室全体を竪穴住居に作り替える
・低学年を招いた展示会を行う
引用:スクールホームページ
【テーマ:人類の生体:義手をつくる(7年生生命科学クラス)】
・定められている法律を調べ、ディスカッションを行う
・人の手はどう動くかを文献をもとに学ぶ
・プロトタイプをデザイン、作成する
生徒たちはただ机に座って学ぶのではなく「なぜこれを学ぶのか」というテーマを意識しながら学習をすすめることができる。また、学んで終わりではなく最後には実際のコンテンツに落とし込み、他者に伝える活動まで行う。まさに「生きた学び」と言えるのではないだろうか。
引用:スクールホームページ
アートを通して、教科横断的に学ぶ
もうひとつの大きな特徴が、プログラムの中心にアートが据えられている点だ。生徒たちは幼稚園から5年生まで、毎週4回、音楽、舞踊、演劇の各クラスに参加するという。例えば、音楽プログラムでは、楽器の演奏だけにとどまらず、舞踊、詩、ドラマ、演技、歌、即興演劇等、身体を通した様々なインプットやアウトプットの方法を学んでいく。
実際に2年生のクラスで行われたクラスを見てみよう。
このクラスでは「From Farm to Face」というテーマで学習を行ったというが、生徒たちが作ったのはなんと「食糧生産のプロセスに従事する労働者の役割を探るダンス」である。
このダンス制作を通じて生徒たちは「音楽」の要素だけではなく、フィールドワークや資料文献集め、グループワークの仕方など、「社会」「国語」等の学習も同時に行っていくこととなる。
クリエイティブ・アート・チャータースクールでは、教師が様々なテーマを選択し多くの芸術分野の同僚と協力しながら、生徒の探究活動をサポートしていく。そのなかで、生徒たちは自然に数学、社会、英語などを学んでいくのだ。
最も大切なのは「自分の可能性に気づくこと」
ここまでクリエイティブ・アート・チャータースクールの実際の授業の内容や教授方法について書いてきたが、全体を通して最も大切だと感じた考え方がある。
それはこうしたプロジェクトを通して目指されているのが「それぞれの生徒が自尊感覚を養うこと」「生徒が自らの潜在的可能性を知り、それを伸ばしていけるようになること」だということだ。
いくらアートが中心に据えられていても、プロジェクト学習で課題解決能力を身に着けても、ここが抜けて落ちていれば、ただ生徒たちに「先進的なカリキュラムを押し付けている」ことにもなりかねない。
様々な手触りのある学習を行うことで、生徒たちが「自分の魅力」に気づくことができるとしたら、それはとても意味のある学びだといえるのではないだろうか。